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映画 『 黄金を抱いて翔べ 』

 面白かった。まず間違いなく今年のキネ旬ベストテン入りは確実だろう。
本屋大賞やミステリー大賞など最新のベストセラー小説が次々と映画化され、
書店に行けば「映画化コーナー」の棚にズラリと原作本が並んでいる中で、
22年前の高村薫のデビュー作に挑んだ井筒和幸。
ずっと温めていた企画が、ようやく念願叶っての映画化となったらしい。

黄金を抱いて翔べ

 高村薫の原作は好みゆえ当然読んでいる。しかし数十年前の読書なので、さすがに細かい部分は忘れていたが、常に登場人物たちの心情をとことん掘り下げ、綿密に筆を進めていく高村薫にしては随分とアクションに特化した小説という印象だった。
憶えているのは銀行の地下金庫から金塊を強奪する計画を立てた男たちがいて、
近隣の変電所を爆破した隙にそれを実行するという大雑把なことくらいで、
北朝鮮の元工作員やら左翼の過激派やら、肝心の幸田の生い立ちにまつわるエピソードなどは綺麗さっぱり記憶から抜け落ちていた。
つまりは映画観賞にはわりとベターな条件が揃っていたわけだ。
そして井筒が目指したのは(或いはこの原作から得ようとしたものは)、ひたすら骨太な男性映画を指向することであり、それは見事に達成されたのではないかと思う。

 とにかく男の体臭がムッとする映画に仕上がった。
言い方を変えれば男騒ぎする映画であり、「男は本当に馬鹿だ」と思わせる映画だ。
そもそも金塊強奪の話となれば、コンピューターの管理システムをハッキングして、
システマティックに計画を実行するのが今の犯罪映画の見せ方になっているのだが、
ダイナマイトで防犯扉を爆破し、金庫をバールでこじ開けるあたり、驚くべきアナクロ二ズムで徹底されている。
そう、犯罪の計画と実行を描くという娯楽映画の王道のような内容なのだから、
爆破の一つやニつやらねぇと娯楽にならんだろうという潔さがこの映画を支えている。
せっかく銀行本店のコンピューターに侵入できるエンジニアが居ながら、彼がやったことといえば、エレベーターの駆動を制御することと、ダイナマイトをセットすることだけというのは笑ってしまうのだが。

 幸田は北川から大阪市の銀行本店地下にある金塊強奪計画を持ちかけられる。
メンバーは他にシステムエンジニアの野田、北朝鮮の工作員モモ、北川の弟・春樹、元エレベーター技師のジイちゃん。
しかし、計画の過程で謎の事件が次々と発生。
そこにはお互い知らない、それぞれの過去が複雑に絡み合っていた・・・。

 そもそもワケありのメンバーたちで固められた金塊強奪計画だ。
計画が実行するまで、本筋の計画以前に様々な妨害が彼らを待ち受けている。
幸田は過去の武器調達などで左翼過激派へのしがらみを引き摺り、
祖国を“脱藩”した北朝鮮の元工作員のモモは、実兄を射殺し、日常的に二重スパイやら、刺客などの脅威に晒されている。
リーダー格である北川と弟の春樹も場当たり的にヤクザと悶着の渦中にあり、それが金塊強奪直前に想定外の悲劇に見舞われることになる。
この映画が徹底的に珍しかったのは、着々と計画を遂行する過程で、実行日まで彼らは生き残ることが出来るのかという矛先にドラマトゥルギーを持っていったことにある。

 「はじめに金塊ありき、我々と共にありき。我々の結束は肉の欲によらず、ただ金塊によって生まれしものなり」と金塊強奪計画をメンバーに宣言したリーダーの北川。
しかし妻子を殺され、弟を貧死の目に遭わされながら、いつしか北川は金塊を手にすることよりも、計画を実行することが目的となってしまったのではないか。
「人間の住んでいない土地で死にたい」と願う幸田のニヒリズム。
幸田が北川と「黄金を抱いて翔ぶ」ロマンを共有していたかといえばどうなのだろう。
モモも自己破壊への衝動で北川たちの仲間に入るが、金塊への執着は見えてこない。
借金返済というシケた目的を持つ野田は別としても、春樹しかり、ジイちゃんしかりで、
メンバーの誰一人として金塊そのものに執着するメンバーがいないという異常。
第一、彼らは金塊強奪のエキスパートでもなんでもない。
それでもこの計画だけは止められないのだというどうしようもなさ。
そもそも「綿密にやるが細かいことまでは決めない」のが方針の金塊強奪計画。
彼らが場所も構わず計画を口にするものだから、会話を聞き齧った大阪のオバちゃんから鋭いツッコミを入れられる体たらくだ。
この大胆だが杜撰な計画はそのまま「この映画は細々とした説明は省いて進んでいきますよ」という井筒の方針に置き換えられるのではないだろうか。
それゆえに、彼らは次々と場当たり的なバイオレンスに遭遇してしまう。
そして、間違いなくその副産物ともいえるバイオレンスの数々が映画に狂ったような活気を与えていた。

 頭を短く刈り込んでクール&ホットに北川を演じた浅野忠信も凄かったが、
満身創痍で鬱屈とした表情を全編で漂わせていた妻夫木聡も凄かった。
『アウトレイジ ビヨンド』での加瀬亮もそうだが、バイオレンスという素材を与えられた男優たちが躍動しているのは今後の日本映画にとって悪い傾向ではない。
その『アウトレイジ ビヨンド』のチンピラ役でいい味を見せた桐谷健太は、ここでは一転してネイティブな大阪弁を駆使してこの映画に最高のアクを与えている。
先ほどの鋭いツッコミを入れたオバちゃんではないが、『黄金を抱いて翔べ』の世界観は大阪が舞台だから成り立っているのは明白だ。
イケメンのチャンミンや溝端淳平を目当てに劇場にやって来た女の子たちが、
男の汗臭さプンプンの映画にどこまで着いてこられるかはまったく定かではないが。



2012.11.10 TOHOシネマズ海老名


author:ZAto, category:映画, 13:10
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