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映画 『 濡れた唇 』

 1972年製作。神代辰巳の記念すべき日活ロマンポルノデビュー作だ。
『恋人たちは濡れた』への再見をあえて堪えた私ではあるが、この未見のデビュー作を観られる機会だけは外すことは出来ない。仕事帰りに夜9時15分開始のユーロスペースでのレイトに駆けつけた。
私がロマンポルノを観てきたピークは高校から、浪人、大学時代の前半。当時、名画座を探していても『濡れた唇』の上映はそれほどなかったように記憶している。
何せこのジャンルは当時は一週間3本立てのローテーションでフル回転状態だった。
映画館が新作、準新作の上映だけでプログラムを埋められるだけのポテンシャルは十分に備わっており、確か入場料1200円ほどの日活の封切り館があって、新作落ちをかける二番館があったとすれば、私は更にその下の300円3本立ての三番館以下に通っていたのだから、そのランクの客にあえてプリントが消耗した小難しい神代辰巳の初期作品を観せるという発想はなかったに違いない。
私がその当時から感じていたことは、優れた女性映画を男の観客たちが独占していることの矛盾と、映画雑誌などで絶賛される神代辰巳と、それを上映している小屋の空気感とのギャップだった。

s_kuma.jpg 主演は絵沢萌子。調べてみないとわからないが、唯一無二の主演映画なのではないかと思う。ロマンポルノに関わらず広く一般映画でも活躍し続けた名脇役だといってもいい。
神代辰巳のデビュー作と書いたが、正確には日活がロマンポルノに移行する以前の一般映画で監督デビューを果たしており、『濡れた唇』はあくまでもロマンポルノ第一回監督作品。その一般作デビュー『かぶりつき人生』があまりにも不入りだったため神代は日活の怒りを買って何年間か干されていたのは有名な話で、ロマンポルノ路線に踏み切ったことで、水を得た魚のように躍動したことはどの神代辰巳プロフィールでも紹介されていることではある。
そして日活ロマンポルノは究極のスターシステム路線だったのだから、主演が当時33歳の絵沢萌子であるという時点でこの第一回作品はまったく期待もされない添え物扱いだったことも窺える。

 材木屋で働く金男はコールガールの洋子を見て一目惚れし、洋子のもとに転がり込む。しかし洋子のヒモが現れ、もみ合っているうちに撲殺してしまった。金男は洋子の故郷に逃亡するが、幼なじみの清からすでに警察が来ていると知らされる。清と恋人の久子が加わり、四人での逃避行が始まった・・・。

 絵沢萌子はもともと芝居が上手く、彼女の存在感だけで最後まで引っ張られてしまうのだが、正直、内容はロマンポルノ以前の日活ニューアクションで原田芳雄、藤竜也、梶芽衣子たちが織りなした不良性感度の高い反体制の青春ものから、権力への激しい怒りを抜いた軟弱で牧歌的な仕上がりだったという印象だった。
一応、全共闘の熱気から取り残されたシラケた空気を感じさせる場面など、後の『青春の蹉跌』の萩原健一と桃井かほりの道行を彷彿とさせ、逃避行で辿り着いた田舎の風景で姫田真佐彦のロングショットなど「ほう」とさせるカットも散見される。
しかし全体的な作りの甘さは如何ともしがたく、思わず苦笑してしまうこところもあった。
評判の夜汽車でのセックスシーンも、その後の神代映画で観てきた濃密度からはまったく及ばすといった具合に、神代辰巳を狂信する先輩方には申し訳ないが、中途半端に神代ロマンポルノに被った世代には、神代辰巳が助走している過程の映画という資料的価値しか見出すことは出来なかった。
それでも絵沢萌子が全編で口ずさむ春歌の情感など、その助走ぶりは悪くない。感銘もなく面白くもなかったが、誰が見ても神代辰巳のリズムであることは納得できるのではないか。
何よりもこの映画の次に撮ることになったのは日本映画の金字塔ともいえる『一条ゆかり・濡れた欲情』なのだから。 
 
 
 
2012.9.21 渋谷ユーロスペース
 
 
 
author:ZAto, category:映画, 23:59
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