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名画座

「名画座」


情報誌から消えてしまった 遠い日に入りびたった名画座
お世辞にもきれいな小屋ではなく テケツのおばちゃんも無愛想だったけど
1秒24コマの青春だった

小便臭い小屋の 前から二列目のいちばん隅が指定席
休憩時間に演歌が流れ ほとんど応えことのない
上映希望リクエスト箱が置いてある

煙草はみんな吸っていたし 酒飲みながら観ていた奴もいた
土方のおじさんたちの寝場所でも 女子供が寄りつかなくとも
300円三本立ては崩さなかった

黄ばんだスクリーンには ゴダールもヴィスコンティもかからなかったけど
野毛町の電柱に貼られた スチルを着色した日本映画のポスターに
不思議と胸がおどっていった

雪の今戸橋をころがる蜜柑 純子と文太がみつめあったのも
突然の雨に困ったリリィに、寅さんがそっと傘を差しだしたのも
山守親分のあまりの理不尽に大笑いしたのも

少年が通天閣のてっぺんから鶏を飛ばしてみせたのも
女郎屋の番傘ひろげて海に消えていった特攻青年も
狂犬と呼ばれたやくざが焼かれた骨をボリボリと齧ってみせたのも

スピーカーから割れんばかりのボリュームで 健サンの唐獅子牡丹が鳴り響き
真っ赤に塗りつぶされたヨットは、どこまでも湘南の海をさまよっていく
なかなかやんけー、なかやんけー えんやーとっと、えんやーとっと

投げやりに大学を受験して あの頃いつもひとりだったし
これといった思想も見つからなくて 持て余した時間を捨てるため
小屋に通っていたはずだった

そしてあれから何年間か ぼくの足は遠ざかったけれど
面影を変えた野毛の路地に あの頃のいい加減だったぼくが
今でもポツリとたっている

ギラついた目線を投げる梶芽衣子のポスターが
雨でびしょびょになりながら 見向きもされずに残ってる
「絶賛上映中」の文字が悲しいけれど



タイトル『名画座』  …30年前の大学ノートの落書きから。

author:ZAto, category:戯言, 09:21
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